【事例紹介】企業におけるキャリア形成とキャリアコンサルタントの役割

2016.3.3
キャリアコンサルティング事例紹介

企業におけるキャリア形成とキャリアコンサルタントの役割

増井　一

◆年代ごとのキャリア形成
　企業で働く人が、どのようにキャリアを形成していくのかを知ることは大切です。
もちろん、個々人でキャリア形成に対する考えは異なるため、キャリアづくりするための行動に早くとりかかる人もいれば、かなり遅くなる人もいます。私たちキャリアコンサルタントは、企業でキャリア相談を行うときに、年代ごとのキャリア形成の全体像を理解して、クライアントが置かれている状況を観ていくことが有益です。

1.導入期（ファーストキャリア）：20代前半
　目の前の仕事経験が能力開発の機会であり、しっかりと実力を蓄える

2.キャリア形成前期：20代後半～30代前半
自分の適性や専門性を模索しながら、専門領域を見極めてキャリアの方向性を模索する

3.キャリア形成後期：30代後半～40代前半
重要な仕事や役割を担いながら、自分の専門領域を確立し、プロフェッショナル人材となっていく

4.キャリア再構築期：40代後半～50代　
　組織における自分の役割が変化していくのを受容し、知識やスキルを後輩に伝承しながら、今後のキャリア選択を準備する

5.キャリア再開発期：60代～
生涯現役を実現するために、さらなる自己開発を行い、新たにお役に立てる､必要とされる人材となる

◆「企業内」と「企業を離れた個人」のキャリアコンサルティングの違い
　企業においてキャリアコンサルティングで行うとき、個人を対象として行うキャリアコンサルティングに加えて、次のような活動が求められます。

1.相談者以外の上司や同僚、人事部門といった関係者も対象とする
2.相談者のキャリア形成に役立つ、能力開発のアドバイスやサポートを行う
3.新たな目標の設定や達成のためのアクションプラン作りをサポートし、相談者がその実現に向けての一歩を踏み出すことを促す
4.相談者のメンタルヘルスにも配慮し、組織における問題を見極めて改善するよう、関係部署・関係者と調整や連携を行う

　活動する際に留意しなければならない点は、組織の役割を理解し、社内の人間関係を探り、関係者と関係性を築きながら進めることです。相談者の上司に対しては、相談者の抱えている問題が解決できることで相談者が元気になるだけでなく、組織の活性化にも役立ち、業績の向上につなげられることを理解してもらうことがポイントです。

◆企業におけるキャリアコンサルタントの活動
　近年、社員がキャリアコンサルタントの資格を取得することを支援する会社が増えており、社内キャリアコンサルタントは着実に増加しています。今回の職業能力開発促進法の改正を受けて、さらにその動きは加速するものと思われます。
キャリアコンサルタントが求められている領域は、今後、さらに広がっていきますが、それにともない、キャリア領域以外の幅広い知識やスキルも求められていきます。

具体的な活動事例としては、下記のものがあります。
(ア) キャリア自律への支援：個人のライフキャリア形成のサポートなど
(イ) 節目研修などの実施：研修終了後のキャリア面談の実施など
(ウ) 自己申告・社内公募制度への応募等への支援
(エ) ダイバーシティ開発の支援
(オ) 働きやすさ、ワークライフバランスへの支援：働きがいとモチベーションなど
(カ) ＥＡＰ、多様な悩みへの支援：心の問題、健康問題、職場復帰時の産業保健専門職等との連携など
　※ＥＡＰ（Employee Assistance Program）
　従業員支援プログラムは米国で1950年代、第二次世界大戦で心的外傷を負った帰還兵士の心の
ケアやベトナム戦争後の経済状況で不安、リストラなど多くの問題を抱えた社会経済の混乱のなか、
労働者の生産性の維持・向上を図るための幅広い支援を行うものである。日本に導入される際は、
メンタルヘルスに限定されているが、本来は、企業で働く従業員を幅広く支援するものである。　
(キ) ハラスメント、安全衛生委員会マターの支援
(ク) 組織活性化の支援：組織診断の実施など　　　　　　　

　キャリア自律を支援する相談は、ライフステージごとに行う必要があります。現在、50代の中高年社員を対象とするキャリア研修や相談を多くの会社で行っていますが、今後、若年層から継続した研修・相談を実施する必要があります。
社内でのキャリアコンサルティングと社外のキャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングがきめ細かく行われると、キャリアを自分事として受け止める社員が増えてくると思います。